バレエダンサーの歩行について

バレエ・ダンスは、自分自身の身体を操り美しく踊り、そして表現を行うもの。 「美しさ」や「綺麗さ」を求められる競技(芸術)であるからこそ、ダンサーや表現家たちは常に美しさを意識してプロポーションを保つとともに、美しい姿勢や美しい歩行を意識的に行っている人がほとんどです。これは、普段から身体の動きに対する意識が高いと予想されるためです。

今回見つけた論文は「歩行」に関する内容でしたが、その中にバレエダンサーの歩行中の関節運動についての調査がありました。

以下、吹き出し部分が論文内容の抜粋です。

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Tepla ら(2014)は、男女共通して、バレエダンサーは歩行中の股関節伸展・股関節外転角度が大きく、骨盤の回旋や上下動が大きいという特徴を示し、歩行中の下肢の動きが大きいことを示した。その後 Januraら(2018)は、バレエダンサーの歩き方の性差に着目し、女性と男性では同年代のバレエ未経験者との違いが生じる部位が異なっていた。女性では同年代の女性よりも股関節外旋角度・膝関節屈曲角度が大きいのに対し、男性では同年代の男性よりも足関節背屈角度が大きく、膝関節屈曲角度が小さく、骨盤の前傾角度が大きかった。女性ダンサーの骨盤の前傾角度は、統計的有意差はないものの、男性ダンサーと同様の傾向が見られている。Astoneら(2019)の報告では、歩行中の時空間変数の違いにも言及し、女性バレエダンサーは両足支持期が長く、歩角が広いこととともに、足関節を背屈し、1歩行周期全体を通して骨盤の前傾角度が大きいことを示している。これらの研究ではいずれも下肢の動きのみを分析対象としており、対象や性別によって矛盾した結果もみられる。

→女性バレエダンサー特徴として股関節外旋角度が大きいのは、アンディオール姿勢が反映されていると考察できます。ただ、アンディオールのまま歩いているということは、意外と腿裏の筋肉がきちんと支えていなかったり、大腿部と下腿部に捻れが生じている可能性が考えられるので注意が必要です。また、膝関節屈曲角度が大きいのは、日頃からプリエを沢山行っていることが考えられます。ジャンプなどのパでも着地時の衝撃吸収をするためにプリエを意識的に行なっているからもあるでしょう。また、他の考えとしては、足関節底屈(ポイントの状態)が多いことから、腓腹筋や足底筋など足関節底屈と共に膝関節屈曲機能を持つ筋肉の疲労拘縮が起きていることの影響も考えられます。その場合はあまり望ましい結果ではないので、きちんと下腿や膝関節周りの筋肉の柔軟性を取り戻すためのケアを習慣的に行う必要がありますね!本来は、普段歩く際にはつま先や膝をきちんと真っ直ぐに向けて歩くほうが美しいし歩行に必要な筋肉がバランスよく働くだろう…と思います。

バレエでは全身の協調的な動作が不可欠であることから、歩行においても全身の動作を包括的に分析することでその特徴を顕著に捉えることができるものと考えられる。筆者らは、主成分分析を用いて1 歩行周期中の全身9カ所の関節角度の変化を検討した。その結果、バレエダンサーでは歩行時に下肢はつま先を外側に向けるという特徴が見られ、バレエの動作特徴である股関節外旋が日常歩行でも再現されていることが示された。また、首の屈曲角度・体幹の伸展角度および骨盤の前傾角度が大きいという結果は、 頭部が骨盤の鉛直線上にあり、いわゆる脊筋を伸ばした姿勢であり、バレエのトレーニング特徴を反映した動作が確認された。

→こちらの結果では下肢だけでなく、上体の姿勢に関しての記載もあります。上記項目に対する考察でも記載したように、アンディオールによる股関節外旋、もしくは、「つま先を外側に向けるという特徴…」という記載がありますので、膝関節外旋の影響かもしれません。その場合、膝関節外旋には必ず膝関節屈曲が伴っていると断言できます。膝が緩んでいるのか、そこはその特徴に合わせて考えみていく必要があるでしょう。 また、後半に書かれている骨盤よりも上の姿勢の特徴に関しては、バレエダンサーに多い脊柱のライン「フラットバック」が想像できます。本来、私たち人間の身体は脊柱がS字のカーブになっていることが理想ですが、バレエダンサーが踊る際にどうしても体幹を真っ直ぐに保とうとすると脊柱のカーブが少なくなり、脊柱も同様にカーブがほぼなく真っ直ぐな状態になるのです。一見綺麗には見えますが、これは実は脊柱に負担のかかる姿勢です…。S字を保ちつつ踊れる脊柱の姿勢を作ることが求められると、私は考えています…。

バレエダンサーに特有の歩き方の審美的評価が高いのかどうかを調査した報告は見当たらない。筆者らが女子大学生34名に行ったアンケート調査では、”自分の歩き方をどのような言葉で評価されたら嬉しいか”という質問に、最も多かった回答は「きれい(16名)」であり、次に多かったのが「姿勢が良い(11名)」であった。バレエダンサーに見られる歩行中の背筋が伸びた状態が、姿勢が良いということだとすれば、ダンサーの歩き方の審美的評価も高い可能性がある。

→大学生の方も「綺麗な姿勢」や「姿勢が良い」ということを求めているのだと知ってとても嬉しい気持ちになりました!!(笑)女性として、いや、男性でもですが、綺麗な姿勢は第一印象がいいですし、話を聞く態度・話す態度としても相手の印象がかなり変わる点だと思うので…。ダンサーだけでなく一般の方・大学生においてもとても重要だと思うのでとても嬉しい結果です♪近年は小学生でも肩こりや腰痛など感じる子が多く、普段の姿勢がかなり影響しています。若いうちから姿勢を意識し綺麗な姿勢を保つのは非常に大切だと思います。

…と、話は逸れましたが、バレエダンサーの歩行に関する研究・調査結果においてバレエで求められるアンディオールの影響や、姿勢を良くしようとしてなりがちなフラットバックの姿勢が多く現れているということがわかりました。いずれも良い点もあれば、怪我や痛みの予防において注意が必要な姿勢もあります。バレエの姿勢特徴を踏まえつつも、使われる筋肉のバランスを考えて普段の姿勢や歩行を意識したり、ケアやストレッチ・補強トレーニングを行っていきましょう!

バレエにおける美しさ×健康的で負担のない美しさ…。どちらも理解した上でパターンを選択して負担をかけすぎずに過ごしていきましょう!自分で自分の身体をコントロールする能力が、きっと身についていくはずです!!!

※バイオメカニズム学会誌Vol.46-No.1(2022)
「運動学的特徴に基づく魅力的な歩き方の定量評価」参考
齋藤 早紀子(日本工業大学共通教育学群)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/46/1/46_16/_pdf/-char/ja

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